ここだけの話−その1

 ●裁判所奮戦記(2000年6月1日) 

裁判所ではいつも揉めてきた。あの権威主義が大嫌いで、ささやかな「抵抗」を行ってきた。たとえば、裁判が始まる前の職員の号令の元に行われる裁判官に対する「起立・礼」の「強要」。あんなことは学校の先生と生徒の世界だけでたくさんだ。弁護士に聞いても「それは慣習で、法律 で決まっているわけでもない」とのこと。私は絶対に立たないことにしている。国民は主権者、裁判官も傍聴者も対等なはず。何で裁判官だけえばりくさるのか。

1年ほど前に揉めたのは「平成」と「西暦」の表記の件。私はある事件で裁判の証言台に立ったのだが、その時に出る「日当」(4千円程度)を受領するのに、日付と名前をサインするようになっている。その書類が平成○○年となっていたので、私は線を引いて西暦に直したら、揉めたのだ。私は天皇制は認めていないし、信条的にも絶対に平成は使いたくないから、いつもそうしている。ところが、職員が絶対に困る、と言い張った。私は、それならカネは要らないと言ったら、向こうは上司と相談したり相当困ったようだった。私がじゃ帰ると言って、お金を受け取らずに事務室の外に出たら、エレベーターのところまで職員が追いかけてきて「お願いします」というわけだ。私は「あなたが平成に直してもけっこうです。でも自分では直さない」と突っぱねた。結局、カネはもらった。でも、裁判所の「硬直」ぶりには驚いた。個人の思想・信条をまったく認めないところが裁判所なのだから、まともな判決が出てくるわけがない。

 そして、昨日(5月31日)はまたまた腹が立ってしまった。たまたま、 岡山県のJR不採用事件の判決があって、傍聴をした。「起立・礼」はしないともちろん決めていた。私の友人も起立をしない人なのだが、職員「立って下さい」としつこく言われたという経験を聞いていたので、やはり開廷時にはちょっと緊張する。ところが、この日は職員の号令もなく拍子抜け。裁判長が入ってくると、傍聴者はみんな自然と起立して座った。

そんな形だったから私が座ったままでいるのは、ほとんど目立たず、アピ ール効果はなかった。あとで、他の人に聞いたら、職員によって「起立・礼」をやる人とやらない人がいるらしい。あるいは、私みたいに抵抗する人が増えたので、対応を変えてつつあるのかもしれない。それはいい傾向だが。

ところで、裁判長の判決が酷かった。もちろん判決内容もあるが、判決をする「態度」がそもそもムカついた。40歳前後の若い裁判長だったが、ほとんど聞き取れないような声で、「原告の申立は棄却する。ムニャムニャ」とわずか20秒ほどしゃべったと思ったら、すぐ席を立ってずらかってしまった。思わず私は「不当判決」と2回叫んだ。そしたらもう一人だれかが「不当判決」と叫んでいた。判決の公判は、初めてだったが、いつもこんなものなのか。あまりにも酷い。まずマイクをちゃんと使って皆に聞こえるようにしゃべるべきだ。そんな最低なこともしないで、わずか20秒しゃべって逃げさるとはどういうことだ。これが仮に「勝訴」だとしても、感じのいいものではない。判決文は別に事務局から弁護士に渡されたみたいだが、分厚い判決文とは別に判決要旨という短い文書もあった。その短い文書くらい裁判長は読むべきではないか。とにかく「誠意」というものがまったく感じられないのだ。人間というより「機械」だった。

その判決内容も、「当時の運輸大臣が組合差別はしないと言ったのだから、組合差別はありえない」という子供だましのお粗末なもの。こんな司 法しか持っていない日本が空恐ろしくなった。そして、もうひとつ残念だったのが、50人くらいのたくさんの傍聴者(ほとんどが国労関係者)がいたが、抗議の声が上がらないことだった。裁判長が不遜な態度をとっているのに、不当判決を受けた人たちはきわめて「紳士的」でおとなしい。これが日本人なのかと思ってしまう。だから負けるんだ、とも思った。何十人もの人々が口々に叫ぶだけで裁判所への圧力になるはず。それに自分でやってみてわかったが、少しはこちらのストレス解消になる。

「不当判決!」−これはこの時、思わず出たことばだったが、次回はもっと考えておこうと思った。ただの「不当判決!」では面白くない。「税金ドロボー」とか「お前は裁判長失格だ」とか「日独裁判官物語を見たか」とか、もっとグサっとくることばを投げつけてやりたいと思った。いや、そんなありきたりの言葉でなく、まず判決を言いはじめたら「聞こえないのでスイマセンが、大きな声でゆっくりしゃべっていただけませんか」というのが一番効果があるかもしれない。裁判所が変わらなければ日本は変わらないと思う。行政権力をチェックすべき裁判所が、それ以上にどうしようもない現実。その無責任な仕事のために、どれだけたくさんの人が泣いていることだろう。

これを読んだ皆さん、そして酷い裁判に泣かされている皆さん。ぜひ裁判所に行ったら「おかしいことはおかしい」とはっきり言おう。権威だけで持っている裁判所は、個人がちょっとツツクだけで、弱さを露呈する。「起立・礼をしない」「西暦を使う」だけでビビってしまうのがいまの裁判所。

もちろん、これは「ここだけの話」、裁判所には内緒だよ。

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