ここだけの話−その4 ●ビビンバにつられて(2001年4月11日)
−チョンジュ国際映画祭招待裏話−
韓国のチョンジュ(全州)国際映画祭から「人らしく生きよう−国労冬物語」に招待状が来た。もちろんうれしい。でも連絡が来たのが3月24日で、開催日(4.27)のわずか1ケ月前。これはどうみても「穴うめ」か。(それでもうれしいが)。それからドタバタ。マスターテープと英語版のシナリオをすぐ送れとか、申込み書を送れとか、フォーラム「ビデオアクティビスムの最前線−新自由主義と対抗するメディア」のための原稿を10日までに送れ、とか、大変だった。
じつは昨年、韓国でレイバーメディア映像フェスティバルが開かれ、韓国の人の協力で「人らしく生きよう」の「韓国語版」は出来ていた。しかし、英語版はない。英語シナリオもない。その旨、FAX で連絡すると「仕方がない。それでいい」という返事だった。
とにかく韓国との距離は近づくばかり。国際宅急便でものを送ると翌日には着いたという連絡が入る。一番心配だったのが航空券。5月連休で果してとれるのか、高いのではないか。インターネットで検索して一番安いところを探してみた。安いはずのHISは高い券しか残ってなくて往復76000 円(大韓航空)。結局ユナイテッド航空の54000 円が見つかった。それにしても2万円も差があるのは恐ろしい。ユナイテッドが安いのは出発が夜の6時で、帰りが朝の10時ということが理由だが、そんなことはこちらには一向構わない。飛行機代は出してくれるみたいだが、立て替えはしなくてはならない。予定外の出費が続く。
フォーラムの参加予定者は、アメリカのペ─パータイガーTV、イギリスのアンダーカレント、ニューヨーク在住の韓国人メディアアクティビスト(ヘイ・ジュン・パクさん)、そして韓国労働ニュース団と私の 5人。他の人たちが実績のあるそうそうたるメンバーなので気落ちする。そしたら、さっそくヘイ・ジュン・パクさんから同報メールが英語で飛び込んできた。当日のフォーラムを充実させるために事前にメールで意見交換をしようというのだ。これにはマイッタ。日常会話までがせいぜいの私にとって、英語でのディスカッションは圧倒的に苦手。メールのほうは、昔友人に作ってもらったビデオプレス紹介英文を流してごまかしたが、本番が心配だ。
英語での会議は過去、何回か出たことはあるが、作ってもらった原稿の棒読みで済ましてきた。今回はそうは行くまい。国際交流の決め手はやはり「ことば」である。英語圏の人とは圧倒的に「言語格差」が存在する。そうした過去の「恥」の体験をいかして、今回は映画事務局に日本語通訳をつけてももらうことをダメモトで頼んだら、すんなりOKとなった。
ということで、4月29日から5月3日まで韓国のチョンジュに行く。ここだけの話なのだが、チョンジュは韓国一ビビンバがうまいことで有名。韓国の人が言っていたのだから間違いない。韓国一のビビンバが食べられる! じつはこれが一番の関心事だったりして・・・
以下は4月30日に予定されているフォーラム「ビデオアクティビズムの最前線−新自由主義に対抗するメディア」のために書いて送った原稿だ。もちろん当日のフォーラムでは、違うことをしゃべるつもり。通訳もいることだし。
●チョンジュ国際映画祭「ビデオアクティビズム・フォーラム」用原稿
2001.4.11 ビデオプレス 松原 明
現在の日本は、社会が刻々と変化していることを目の当たりにすることができます。IT革命といわれるコンピュータの普及や携帯電話の普及はものすごいものがありますが、その一方で不気味に進行している事態があります。
それは、たとえば、これまで一部の地域に限られていたホームレスの人々があらゆる地方都市にまで出現していること。あるいは、個人商店(八百屋、肉屋、文房具屋、洋品店、食堂など)がバタバタと倒産し閉店していることです。それに代わって、町の風景を変えているのは大型スーパーやコンビニです。
これまで、企業内の合理化にとどまっていたリストラが、いまでは会社ごとのスクラップ&ビルドになり、倒産・失業が大量に発生しています。正規労働者が減り、非正規労働者が増大しています。これに対して、御用組合化している労働側からは有効な反撃はまだ起きていませんが、その変化の兆しがやっと見えてきたところです。
私たちビデオプレスは、この14年間、国鉄闘争の取材を続けてきましたが、この問題はまさに、こうした日本社会を象徴する事件でした。1987年の国鉄の民営化は、同時に進められた電々公社の民営化と相まって、社会を「利潤追及第一主義」に変えていきました。一方、国労組合員など1047名を解雇したこの事件は、その後の日本のリストラのモデルとなりました。この国鉄のリストラ方式というのは、別会社(JR)をつくって看板を書き換え、労働者を新規採用する形にして気にいらない人間を排除するというやり方です。こうしたデタラメなことを自民党政府は法律をつくってやったのです。解雇された人たちは、これに納得せず、闘争団というグループをつくってアルバイトなどで生活を支えあい、14年間も闘い続けています。現在、組合幹部は「全面屈服」で闘争を収拾しようとしますが、闘争団それを拒否し、新たな運動体を作り闘争を継続中です。
民営化は、イギリスのサッチャー、アメリカのレーガン、そして日本の中曾根が協調して進めた新自由主義の国家政策でした。その特徴は公共部門の民営化、福祉の切り捨て、利潤追求路線で、それに反対する労働運動をつぶすことが一体のものとして行われました。イギリスでは港湾労組がつぶされ、アメリカでは管制官ストが弾圧され、日本では戦後最強の労働組合、国労が攻撃されたのです。このことは当時、私たちの頭の中ではわかっていました。しかし、労働者側の国際連帯行動はまったくありませんでした。
1995年、私たちは偶然、リバプールの港湾労働者と知り合うことになります。それは、リバプールの解雇争議支援の国際キャンペーンの呼びかけがインターネットで流され、それを日本の港湾労働者が受け止めたことがきっかけでした。共同のビデオ制作の呼びかけもあり、ビデオプレスでは日本の映像をアメリカに送り、共同編集した作品が、米国のケーブルテレビなどに流されました。こうしたことがきっかけになって、1997年にはリバプール港湾労働者 2名が来日しました。その時、解雇されて闘っている国労組合員と初めて出会ったのです。
交流はまず、お互いのビデオを見ることから始まりました。イギリスからは、リバプールの闘いを描いたケン・ローチの「ピケをこえなかった男たち」(Flickering Flame)、日本からはビデオプレスで制作した20分の英語版ビデオ「JRの首切り」です。見終わっての感想は、「まったく同じだ」の一言に尽きました。マスメディアを使った反組合キャンペーン(「労働者は権利ばかり主張して働かない」)の中で孤立させられ、つぶされていった過程、そして、労働組合員というだけで解雇されたことなど、瓜二つだったのです。このビデオ交流で、お互いの闘いの意味が鮮明になりました。もちろん、連帯が深まったことは言うまでもありません。
韓国鉄道労働者との連係も、徐々に進んでいます。韓国ではこれから民営化が始められようとしています。先日、私は鉄道労働者が、民営化を認めた組合幹部と闘っているビデオを見ることが出来ましたが、日本でもまったく同じことが起こりました。赤字ローカル線の切り捨て、人員削減、そして、組合幹部の裏切りです。ビデオなどのメディアを通じることで、幹部だけの交流ではなく、現場レベルの交流を加速できると思っています。
イギリスのことも、韓国のことも、日本のマスコミではほとんど報道されて来ませんでした。ですから、国労組合員でこうしたことを知っている人はごくごく少数です。お互いに事実を知るということ、ビデオやインターネットが極めて有効な役割を果していくことかということは、もはや常識だと思いますが、それをより強力に押し進めていく必要があります。98年には、日本のビデオアクティビストのネットワークであるVIDEO ACT!を立ち上げ、共同のビデオカタログづくりなども進んでいます。VIDEO ACT!のスローガンは「つくる・見せる・変える」ですが、これに「国際的に」を加えたいと思っています。また、今年 2月には、日本でも「レイバーネット日本」が発足し、本格的な運動を開始しました。
私たち日本人は韓国の人と同じで、英語が苦手な民族で、ハンディが大きいですが、国際的につながることが本当に大事な時期に来ていることを実感しています。
14年間も人生を賭けて闘っている国労闘争団のメンバーはけしてバリバリの活動家ではありません。大部分が普通の真面目な労働者だったのです。ただ、「仲間を裏切って自分だけよければいい」という生き方が出来なかった人たちです。私たちは、こうした労働者がバブルに浮かれた90年代の日本に存在していたことを誇りに思っています。
国労闘争団は、14年の苦闘の中で、日本の労働運動の弱点だった企業内主義や幹部請負主義を克服しつつあります。冒頭に述べた、新しい変化の兆しは国労闘争団の闘いから始まっています。私たちの役割は、それを記録し、拡げていくことだと思っています。